活動報告

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国際コンファレンスWell-being and the Future of Industrial Relations

1.主催:

B03班

2.共催:

  • 科研費 学術変革領域研究A「尊厳学の確立:尊厳概念に基づく社会統合の学際的パラダイムの構築に向けて」(課題番号23A103)
  • JSPS基盤研究(A)「ケイパビリティ・アプローチに基づく福祉交通システムの実装と調査分析プログラムの構築」(課題番号19H00595)
  • 公益財団法人 神林留学生奨学会
  • ムーンショット型研究開発事業「脳指標の個人間比較に基づく福祉と主体性の最大化」(課題番号JPMJMS2294)
  • 一橋大学経済研究所共同利用共同研究拠点事業

3.日時:

2024年12月16日(月),17日(火)

4.場所:

帝京大学霞ヶ関キャンパス

5.形態:

対面のみ(言語:英語のみ)

6.プログラム:

Opening remarks by organizer
Session 1: Recent Changes in Industrial Relations: Insights from Statistics and Surveys
-Akie NAKAMURA(RENGO-RIALS)/Susumu KUWAHARA (IER, Hitotsubashi)
Discrepancy in Unionization Rates Between Official and Social Surveys in Japan
-Alex BRYSON (UCL)
Unions, Wages and Hours in the USA: A Half-Century Perspective
-Ryo KAMBAYASHI (Musashi)
Union Membership Dynamics in Japan: Analyzing Demand, Supply, and Satisfaction
-Kyoko SUZUKI (JILPT)/Akie NAKAMURA (RENGO-RIALS)
Job Quality and Union Membership Status
Session 2: Roles and Mechanisms of Industrial Relations: Behind the Scenes
-Tomohiro SHIMONAGA (Doshisha)
Curriculum Design for Vocational Training in Japan in Response to the Fourth Industrial Revolution and Challenges
-Ikutaro ENATSU (Kobe)
A Case Study on Data-driven Labor Unions in Japan
-Takao KATO (Colgate)
Information and Goal Misalignment, Employee Voice, and Wages: Evidence from Japanese Linked Employer-Employee Data
Session 3: Well-being and the Future of Industrial Relations
-Reiko GOTOH (Teikyo)
An Empirical Challenge of Capability Approach
-Andrew CLARK (Paris School of Economics – CNRS)
Well-being at Work: Japan and the OECD
-Gabriel BURDIN (Siena)
The Impact of Overtime Limits on Firms and Workers: Evidence from Japan’s Work Style Reform
-Mari TANAKA (IER, Hitotsubashi/ Tokyo)
Unions in Developing Countries
Final remarks by the organizer

7.参加人数:

30名

8.概要と振り返り:

 経済学に倫理を導入する試みの多くは、利他心、共感、信頼、社会的選好などの概念によって合理的経済人(自己利益最大化)モデルを拡張することに向けられてきた。社会的な再分配政策の桎梏となる労働インセンティブ理論,教育と就労を貫く一元的序列主義(生産性)・能力主義,契約自由の成立条件などの問題が十分に取り組まれてきたとは言い難い。

 個人の福祉と労使関係をめぐる国際コンファレンスでは,個人と公共の間に労働組合(協約)という概念を挟むことにより,経済学の死角にひとすじの光が当てられた。以下にその概要を簡単に記そう。

 ベルサイユ体制後のリベラルな民主主義社会において形成された労働者‐資本家 (Labor and Capital) という階級意識は近年薄れ,被用者 – 使用者 (Employee and Employer) という一対一の契約関係が「契約自由の原則」とともに強調されるようになってきた。たとえば、先進各国での労働組合組織率の低下という現状に如実にあらわれている。

 またこの傾向は、個人が直接国家に糾合されるというフランス革命以来の社会観や方法論的個人主義という経済学や計量経済学の前提と親和的で、個人の福祉を評価する局面においても、整った理論や統計的操作を現実に当てはめられるようになることからむしろ当然とされてきた。しかし、このコンファレンスで話し合われたように、とくに個人の福祉という観点からは、この傾向には議論の余地がいくつもある。

 まず,被用者‐使用者関係には意思決定の機会や行使可能な権限において明確な非対称性が残ると考えるべきである。「契約自由の原理」の形式的な適用は,特定の個人が被る権利の侵害(福祉の毀損)を覆い隠しかねない。

 また、もともと福祉の評価基準を措定するには、何ができるかという(客観的)機能測定と同時に、何がしたいか/何をするべきかという(主観的)準拠機能の措定が不可欠となる。個人と国家を直接つなぐ近代社会では、この何がしたいか/何をするべきかは,個人(または国家)が専権的に決められるものと考えられている点に注意されたい。

 現実には、特定の個人が措定すべき機能は、家族やコミュニティなど、アイデンティティを共有する集団に深く規定されながら,形づくられていく。準拠機能の措定が完全に個人に任され、未経験の反実仮想を通じた準拠機能の措定ができないとすれば、当該個人の措定する準拠機能は自らの経験に過度に依存する可能性がある。

 本来、準拠機能の措定は、反実仮想を通じて未経験の領域に自らを延長することによって知識を獲得し、より規範的に是認できる準拠機能が措定されるべきだろう。この際有用なのは、同一アイデンティティのもとでは他人の経験を自らの経験(つまり反実仮想)として取り込めるという手順である。

 同一アイデンティで定義される集計単位を「中間団体」と呼ぶとすれば、被用者-使用者関係における最も有力な中間団体は労働組合であり、そこでの価値規範を表象するのは労使協約である。最近の先進各国での労働組合組織率の低下は、労働者の交渉力や労働分配率の低下というマクロ的資源配分的非効率性を生み出すおそれのあることが指摘されている。その影響は,結局のところ、はたらく人々の職場内規範形成に影響を及ぼしかねない。

 本コンファレンスでは「契約から協約へ」の可能性と現実性が多角的に検討され,国内外のさまざまなデータ、ケーススタディを通じて、非対称的な関係性を前提としたうえで,合意形成する手続きとメカニズムについて貴重な示唆が得られた。実のところ,近年の社会福祉基礎構造改革で進められた「措置から契約へ」にも同様の問題が潜む。労働組合研究で得られた知見は,社会福祉制度改革においても有用となろう。